強制終了を経て
2019年、私の課外活動は終了し、残りの日数は1mmも無理せず過ごします故、また来年よろしくどうぞお付き合いください
11月中はずっと風邪ひいたり治ったり、咳込んだり、熱出しても病院いかずに市販の薬と大量のご飯でなんとかなったけど、占いをしすぎた感を常々感じてたり、その辺の無理がたたったか、人生初めての扁桃炎、腫れまくり、熱出まくり、ご飯食べれないゼリーマンになりながらそれでも沖縄に来て初めての100自分の意思で出展したイベントにて、占いしまくり、社交して、終わってから寝床の村に辿り着いてみれば、やり切った!と、喉が完全closeで唾も水も飲めない状況に陥って夜通しありとあらゆる角度から自分の体調、状況と選択肢をググり尽くした私は朝7時に怠い〜、だけどこのままじゃ無理やばい、しかし、寒いし、熱もあるから肌着着て、シャツ着て、ダウン着て、デニムコートを羽織って前ボタン全部止めて、首元に風当たぬ様タオルを入れて、頭デカイから倉庫に転がっている、同じく頭デカイ何処かにいる持ち主不明のフルフェイス黒メットを被りスズキの原チャリに跨り、おそらく日本で最も簡単な東海岸から西海岸への山越えを、もうこれしかない感、と一欠片の勇気を持って敢行したのです。
名護の西側、沖縄県立北部病院の救急で診てもらった結果「これからレントゲンと、脳のCTも撮って、血液検査しますけど、脱水症状でてますし、喉の様子からして栄養補給どうしてもできないですね、ですよね?唾も飲み込めないんですよね?はい、なので入院ですねー」と即入院。
今夏沖縄へ来てから長く続いた日常の強制終了とあいなった訳で、検査の結果、扁桃周囲膿瘍は手術は必要なく、点滴繋いで、抗生物質投入しまくって、栄養分?ぶち込んで、痛み止めも入れて、左手はメカですよもう、腫れが引いて、喉が開通してご飯を食べれるようになれば一週間ほどで治るということで、とりあえずなんでもいい、衰弱してくしかないコースだった訳ですから、栄養を口をうごかさなくても左手から吸収できて、綺麗な布団にベッドしかもリモコンでビー、ビー、と自動で形変えてくれるし、優しい看護士の皆様は正に天使だし、とにかくなーんの用事もない、身体は最高潮にきついけれど、なんとも言えぬ開放感、閉鎖的自由を味わって過ごせるのですから自分は今最高、そして幸せ者なんだと思うわけでした。
入院してから三日目の膿みと身体が格闘して、まだ声を出すのが辛い夜に、病室の隣から漏れ聞こえる音に興奮してしまった私は声が出ないからどうしようもなく、どうしようどうしようとおろおろしながらその漏れる音に聞き耳を立て続け、隣に寝る男のそれまでの情報を整理し、確か昼くらいに誰か、見舞いの人だか、看護師だかと話してる時には「…BMXに関わる仕事をしていてそれで怪我して入院…」的なことを言ってたなと。うわーでもほぼノーチェックだぜ…
Miles Davis のアルバムKind of blueを聴いてるなー、多分日中聞いた声的に同年代ぽいんだけど話したら面白そうな人だぞと思いながらもまだ世間話もできない喉だから、ボケーっとベッドに横になってスマホを触っていたら、サイレンの様な高音が一音づつ上がるあの曲が!うお!これ最高だよね!うおこれ曲名なんだっけ??なんだっけー!!!!と思っているうちに曲が変わって、次の曲へ、DETERMINATIONSの曲に。こ、この人は中々にやりおる…この流れだし、音を気持ちいいだけで選んで聴いてるぞ…なんて思いながらさっき流れてた曲が思い出せない!ぐおーーーー!とか思いながら聞けばいいものを声が出ないから無理!ということで、早く喉を開かせて隣の男に話しかけたい!という気持ちで眠りにつこうとするも、その曲をもう一度聞きたい!なんの曲だっけマジで!?という作業で眠れないわけですが、そこは病気の点滴男そんなことよりも喉に詰まった膿みを吐き出したり、唾を出したりしながら辛い眠りと闘う方が精一杯ということで、あっという間に寝てしまいそのあと、寝ては起きてはを繰り返して気づけば朝に。
三分粥とかいう、ほぼ重湯というか、もうあれ、糊!と、おかずをひたすら咀嚼し痛み止めで喉を騙して飲み込むご飯は、いや、実際めちゃくちゃ美味しいんです、結局人間状況により美味しいご飯なんて変わるもんです。食べたあとはひたすら昼寝して夕方起きたら、あれっ!喉の痛みが少し消えてる!看護師さんがきて体温と脈拍、血圧測ってる間に喋れる!よしこれは今夜、昨晩の同じ頃合いで、隣と遮るカーテンをノックしてやろうと決めたのです。
隣の男は強い意志を三白眼に湛えた短髪のいい男でした。カーテン越しの私、不細工そうな幽霊の様な声で「…あのぉ〜、昨日音が聞こえてきてて…」カーテンを手繰り上げて顔を見ると「あ、音うるさかったですか」「あ、いや大丈夫で、あの昨日聴かれてたマイルスデイビスの後に聴いてたと思うんですけどあの、一音一音上がってく曲…」と言ってすぐ「ああ〜、あれですか」てな具合で言われるがままに、スマホで検索して、あった!うおおお!やっとイヤホンで聴ける!とか思いながら、握手をして改めて互いに挨拶をしたらあとはもう大体通じて、その後は色々、東京の話、沖縄の話して、聞いて、母が漬けた梅干しを渡して、みかんもらい、誰かのお手製クッキーもらい、シークワーサーもらい!!とにかく話していてナイスガイ、脚がなんだか池袋病とかいう奇妙な病気だけど、身のこなしもいい具合のストリートおじさんで、早ければ来週退院でそのあとすぐ東京戻って仕事だってさ、まじかよ、強いぜ、カッコいい、ちゃんと治してくださいやー!
「目にダルさ濁らず、言葉篭らず、壮年のええ男ここいたわ」
皆んな漏れなく不調の人たちで、切迫した、妙な空間、たった一曲で、しかも音漏れで人が繋がれるなんて事は最高極まりない出来事で、そういえば以前に妹が「イヤホント気になります」という街ゆく人のイヤホンの中の曲が気になりすぎて、とにかくインタビューして「何聞いてるんですか?」っていうZineを売ってたことを思い出して、あ奴はこの出会いをひたすらしてたのかとこれまた感銘をうけたりとにかく感激が忙しい入院中の私でした。
夏を想うには早すぎる沖縄の冬のだらしなさですが、この曲は12月の今の沖縄にこそあっているかもしれません、いや、もはやどこでもいいのかもしれない、音から呼び起こされる記憶は遠いアメリカの地ではなく、汗を扱い切れない気怠い暑さがあるあの地か、極寒のシベリアか、どこでもいい、どちらにせよ私が聞いた場所は、12月の沖縄は名護の北部病院で、その曲を聴いたその瞬間に、その自分の"今"を想い浮かべたのです。
「狂気は一瞬、狂騒を離れて、そこにまた狂気」
Music : Kool And The Gang - Summer Madness
Location : NAGO, OKINAWA.